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Vol.71 未登の壁「マウントボール東壁」


こんにちは。山田トシです。ロッキーもすっかり春になり晴れた日中はTシャツで行動できる季節になりました。最近はもっぱらフリークライミングに明け暮れていますが、今回の記事は今季ウィンタークライミングの目標そして我らがチームリンクアップの私、谷そして日本から駆け付けた星野の三人で挑んだマウントボール東壁の挑戦についてまとめと反省を込めて書いていきたいと思います。

いきなり雪崩の写真で脅かしてしまい申し訳ありませんが、この壁が標高差1000mを超える未登のマウントボール東壁です。

 結論から言うと今回の挑戦は完敗でした。今季のロッキーは雪の量が例年に比べてとても多く雪崩の危険が非常に高かったです。私達が敗退を決断した直前にこの雪崩に直面しました。

この写真は昨年谷と二人で行った試登時のものです。前回は全く真逆のコンディションで雪は少なく暑すぎたのでほぼ氷が溶けてしまっている状況で敗退しました。谷が登っているこの氷も実はほとんど雪の塊と化していました。

これが昨年撮ったマウントボール東壁になります。ほとんど雪もなく雪崩の危険も少ないように感じました。ただ、氷の条件が悪すぎました。

昨年の経験からこの壁は外的危険がとても大きく今季チャレンジできるかはコンディション次第だと言うことは分かっていたので2月末にメンバーの谷そしてボブ菊池と共に偵察に出かけました。昨年に比べて氷の条件が良く、1本の氷を初登することができ名前を谷が食べていたスナックの味にちなんで「WASABI」と名付けました

(詳細は http://gripped.com/news/wasabi-new-steep-wi5-ice-route-rockies/)。

写真はWASABI2ピッチ目を登る私です。春の挑戦に備えてテントやクライミングギアを木の上に吊るし、下山しました。

3月に入り星野も無事にロッキーへ到着し、本番に備えてできる限りトレーニングを重ねました。星野は北海道で鍛えた腕をロッキーで振るいまくっていました。北海道で登ってればロッキーでも通用する!!と豪語していました。

スキーを履いていよいよ入山。荷物をデポしたにも関わらず荷物が前回より多いのは食事を豪華にしすぎたせいでした。私はこの入山前に酷い風邪を引いてしまい数日入山を延期させてしまいました。体調管理も今回の反省の一つになってしまいました。

翌日気合十分でBCを出発する谷。午前中は日が燦々と当たる壁なので敢えて午後から取り付くことに。

今回のバックアッププランであった北壁側です。東壁は日が当たりコンディションが掴みにくいため日の当らない北面も視野に入れての挑戦でした。

写真中央の顕著なガリー(溝状)から登り始めます。昨年のラインとは違う(上部には顕著なセラックや雪壁がないので東壁では一番安全だと考えられる)ラインを攻める予定でした。

今回唯一のクライミングとなった1ピッチ目をフォローする星野。この時北壁側ではセラックの崩壊が原因と思われる巨大な雪崩が起きていました。

次第に強くなるチリ雪崩から身を隠す谷。日もすっかり陰り落ち着くだろうと思われた壁から起きるチリ雪崩。ラインは溝状なので上から発生したものが集まってくる。なぜ起きるのか?原因が上部で吹いているであろう風しかないが、それほど風は強く感じない。いつ巨大な雪崩が襲ってくるかもしれないという恐怖で心がいっぱいになり、下降を開始しました。

写真は敗退を決断したその時。

「もう一度頑張ってみよう」とメンバーで話し合い、実は朝の方が状態がいいのかもしれないと今度は午前中にアタックを試みることにしたが、アプローチ中はボールの雪面が気になり気持ちは上がって来ない。いつ雪崩が起こるか分からない恐怖と昨年からの目標だけに登りたいという好奇心。もし取り付いたら絶対に満足いくクライミングができることはラインから見て取れる。しかし冒頭の雪崩が起きたことでそんな堂々巡りの自問自答から解放され今回の挑戦の敗退を決めたのであった。

あまりにもあっけなく終わってしまった計画に自責の念は拭えない。敗退はいつも簡単である。私たちの出した判断は間違っていなかったと思うが、何かが自分に足りないのも確かだと思う。その何かとはロッキーの山に対する経験だと自分は感じている。ロッキーでクライミングは年中しているが山でクライミングをしている日数が実に少ないことに気づいた。もっと経験があれば「今回の計画は早々に変更するべきだったのでは?」、「本当に春のこの時期がベストの壁だったのか?」、「このコンディションなら実は登攀可能だったのでは?」などの疑問に対する判断をもっと明確に納得してできたに違いない。

一つはっきりしたことは今までベストシーズンの一つと思っていた春の時期は天候が意外に不安定で雪の量は一年で一番多いということだった。今回のボールは偵察した2月よりも春の方が圧倒的に雪量が多くなっていた。壁の特徴から言えば3月初旬が良かったのかもしれない。今何を書いても後の祭りになってしまうが、ただ一つはっきりしていることは四季を通じてロッキーの山に入りクライミングをたくさんして経験を積むしかないという事実だ。その先には今回のような冒険的なクライミングの成功があるんだと思う。これからもこの地で登り続けよう。

今回の計画に際してチームリンクアップにご支援をして頂いたモンベルの皆様、そして個人的に日頃からサポートをして頂いているミレーの皆様にこの場を借りてお礼申し上げます。

ボール東壁全景と挑戦したライン。

青:昨年の試登ライン、オレンジ:WASABI、赤:今回トライしたライン


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